サッカーレフリーに求められるフィジカル能力とは
本記事ではフィジカルコーチがフィジカルコーチ目線でサッカーレフリーに必要な能力は何か?について解説する。
☆本記事でのゴール☆
- レフリーに求められる能力が理解できる
- パフォーマンス向上の為のトレーニングプログラムを組めるようになる
- 自己分析が出来るようになる
【結論】
~サッカーレフリーは選手同様の身体能力が求められる~
90分間常に良いジャッジが求められるレフリーだが、選手と大きく違うことは ミスを取り返すことができないことである。
今はVARが導入され、ペナルティエリア内でのミスジャッジはなくなりつつあるが、ひとつのミスジャッジがチームの勝利を左右するかもしれないのは変わらない事実である。
そんな1つのミスも許されない環境下でより高いパフォーマンス発揮を持続的に行うために必要な身体能力を解説していく。
レフリーに求められる身体能力は以下の5つであると考えられる。
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心肺持久力
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スプリント能力
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方向転換能能力
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ゲーム分析能力
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メンタル
これらの能力は、サッカー選手に求められる能力とほとんど同じであるといえる。
唯一異なる能力を強いて言えばボールタッチスキルがない事である。
選手の場合ボールタッチによる心理的ストレスが体力を消耗させる一つの要因であるように、レフリーも同様に90分間ミスジャッジが許されない心理的ストレスは選手同様 求められる能力は限りなく近いと思われる。
ではこれから5つの能力について誰でも分かりやすく解説をしていく。
① 心肺持久力
心肺持久力を簡単に言えば体力です。90分間で約13キロを走るレフリーにとって一番重要である能力である。
レフリーは常に良いポジションに立ちプレーのジャッジメントが求められ、良いポジションにいないとミスジャッジに繋がることも考えられる。
では心肺持久力と言っても幅広いが、1つ基準を設けてみる。
イタリア一流審判に対してフィールドテストを行った結果、12分間走で2866キロメートル±164であった。(※1)
この研究から12分間走の成績は試合における一流審判のパフォーマンスを予測するうえ である程度の有効性があり、コンディショニングプログラム には有酸素性フィットネスの向上に主眼を置くべきであることが明らかになった。
つまりレフリーに求められる一番の能力は心肺持久力である。
大舞台での大きなプレッシャー条件下で最大のパフォーマンスを発揮するには、トレーニングにおいて基準の数値を超えておくべきだろう。
心肺持久力のトレーニング方法については、別記事にて解説する。
② スプリント能力
サッカーをする上で必ず求められる能力がこのスプリント能力である。
サッカーはスプリント回数平均でも480回程度行われている。
特に近年のサッカースタイルとして、スピーディーなゲーム展開、ショートカウンターが多く行われるため、当然レフリーにも同様のスプリント能力が求められる。
そもそもサッカーにおいて求められるスプリント能力とは?
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90分間一定のスプリント力を維持する能力
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短い距離(約20m)の爆発的なスプリント
選手に求められる能力は上記の2点である。
参考までに2019-2020シーズンのプレミアリーグのスプリント回数とスプリント速度のランキングを挙げてみた。
『スプリント数 上位5選手』
1位 アンドリュー・ロバートソン:562回
2位 テーム・プッキ:559回
3位 オーバメヤン:532回
4位 ロベルト・フィルミーノ:484回
5位 スターリング:480回
※スプリントとは時速24㎞以上のスピードが基準である。
『最高時速 上位5選手』
1位 アダマ・トラオレ:37.78㎞/h
2位 アーロン・ワン・ビサッカ:37.60㎞/h
3位 メイソン・グリーンウッド:37.60㎞/h
4位 チャグラル・ソユンク:37.55km/h
5位 エインズリー・メイトランド・ナイルズ:37.46km/h
(引用元:イギリスメディア スカイスポーツ)
最高速度1位のトラオレ選手のスピードを100走に想定すると、10秒台を切れる速度でプレーをしているプレミアリーグは凄まじい。
スプリント数、スプリント速度から現代のサッカーにおいて、スピード感が非常に高い考察出来る。こういったゲームをジャッジメントするレフリーにも同様にスプリント数とスプリントスピードが求められる。
ここで一番重要なことは、平均的に高い数字を上げる能力である。つまりコンスタントにスプリント回数、スプリントスピードをパフォーマンスを発揮するべきである。
そのためには、体の使い方として効率良い走り方とパフォーマンスを発揮可能な基礎体力が求められる。スプリント能力のトレーニングについても別記事で解説する。
③ 方向転換能力
サッカー1試合の方向転換回数の平均は800回行われている。
方向転換はアジリティの一部であるが、そもそもアジリティと言っても結局どういうことなのかを詳しく解説してみる。
アジリティとは ?
大きく2つに枝分かれしている。
知覚・意思決定と方向転換スピードである。
知覚意思決定
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予測
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状況判断
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視覚情報
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パターンの認識
頭の中で行われ、経験に大きく依存している部分である。サッカーIQとい表すことも可能である。
元スペイン代表シャビは「周りを見るのは自分の頭の中で描いているイメージとの確認作業である」と語っている。
つまり経験則から知覚・意思決定の分野は作り上げられているのではと私は考察している。
方向転換スピード
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スプリント力
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筋の特性
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テクニック
このように、身体能力に依存している部分が大きいと思われる。 (スプリント力に関しては先程の章を参照 )
筋の特性については難しい話になるため今回は省略する。 ここではテクニックの話を深堀してみることにする。
方向転換時に必要になるテクニックとは、ムーブメントスキルである。
もっとわかりやすく表現すると、効率の良い動作である。
効率の良い動作とは、第一に怪我をしないことが一番重要である。
ムーブメントスキルについての深堀も別記事にて解説する。
④ ゲーム分析力
次に挙げる能力はゲーム分析力である。 ゲーム分析力とは以下の3点だと考える。
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ゲーム状況
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選手の感情
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2チームの特徴
ゲーム状況について
そのゲームに昇格や降格などリーグ戦の終盤のゲームであればあるほど、選手たちはエキサイトする可能性が予想されているため、いかにレフリーが落ち着いたゲーム運びが求められる。またゲームにおいてどのようなサッカーが繰り広げられているのかも把握する為にも、ゲーム状況を事前準備から現場判断で即座に把握することがレフリーのパフォーマンスを最大限発揮する要因である。
選手の感情
感情は目に見える形になると手遅れだ。なぜなら怒りの感情がある選手は悪質なファールに走るからである。レフリーはゲーム状況を把握しながら、選手たちの声や表情などを観察することで悪質なファールを防ぐことが可能になる。
2チームの特徴
チームの特徴を把握することで、ボールの流れの予測に繋がる。 例えば、バルセロナのゲームを例に挙げて解説する。
バルセロナはボール支配率が高いチームため、対戦する相手はカウンターを狙っているだろう。そしてメッシにボールは集まる。そのためメッシの位置を把握すること、メッシがボールを保持すれば相手選手はファール覚悟でボール奪取するため注意を払う必要がある。
また相手FW選手はカウンターの為に前に残っているのか、いないのかによってもレフリーのポジションも変更する必要があるため、いかに2チームの特徴、もっと言うと22人の選手を把握していることは、パフォーマンスを最大限に発揮する大きな要因になるはずだ。
⑤ メンタル
レフリーは選手から辛いコメントが多く飛んでくるのは間違いないだろう。
ダービー戦や1ゲームにチームの明暗を左右するゲームであればあるほど、レフリーへの当たりは非常に強い。
そんな中でもパフォーマンス発揮を平均して発揮するためには、メンタルコントロールが求められる。
やはりスポーツは心技体の言葉のように、心が一番重要である。
専門的な言葉を使うと心は思考つまり、脳が判断している。
そのため脳に制約が掛かっていると、身体も制約が掛かり最大限のパフォーマンス発揮は難しくなるだろう。
○まとめ
本記事では以下の能力を一つ一つ解説した。
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心肺持久力
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スプリント能力
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方向転換能能力
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ゲーム分析能力
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メンタル
レフリーに求められる能力は、選手同様の能力が求められる。
そのためにはどのようなトレーニングを行うことが必要なのかを今後フィジカルコーチの観点から解説していこうと思う。
引用文献
(※1)Castagna,C.,G.Abt,and S.D’Ottavio. Relation between fitness tests and match performance in elite italian soccer referees. J.Strength Cond.Res.16(2):231-235.2002.)